2015年4月9日木曜日

『A Search in Secret India』 第9章 ⑤夢の中での導き

◇『秘められしインドでの探求(A Search in Secret India)』 邦題:秘められたインド

 我々がヤシの木に囲まれた中庭に馬車で入った時、ホタルが隠遁所の庭園中を飛び回り、暗闇の背景に光の奇妙なパターンを描いていた。そして、私が長い講堂に入り、床の上の座に身を沈めた時、崇高な静寂がこの場所に達し、空気に広がったように見えた。

 集まった客人は講堂のあちこちに列をなしてしゃがんでいるが、彼らの間にはざわめきも会話もない。角の寝台にマハルシは座り、彼の両足は下に折りたたまれ、彼の両手は無造作に両ひざに置かれている。あらためて、彼の姿は質素で地味だと私に印象づけたが、それでいて、威厳があり、印象的だ。彼の頭は、ホメロス時代の賢者の頭ように、堂々として落ち着いている。彼の両目は、講堂のはるか端の方をじっと見つめ、動かない。この眼差しが奇妙に定まっていることは、依然として困惑させるものだ。彼は最後の一筋の光が空から消えゆくのを窓ごしに見守っているに過ぎないのか、それとも彼は何か夢のような放心状態に夢中なために、この物質的世界をまるで見ていないのか。

 お香のいつもの煙が屋根の木製の梁の間をただよう。私は腰を落ち着け、マハルシに視線を定めようと試みたが、しばらくすると目を閉じたいという微(かす)かな衝動を感じた。賢者の付近で私をより深く貫きはじめた、つかみどころのない安らぎにあやしつけられ、私が半ば眠っているような状態に落ちるまで、さほど時間はかからなかった。ついに私の意識は途切れ、その後、私は鮮明な夢を体験した。

 私は5歳の小さな男の子になったようだった。アルナーチャラの神聖な山の周りを巻き上がる、でこぼこした道の上に私は立ち、マハルシの手を握っている。しかし、今や、彼は私のそばに高々とそびえ立つ姿をしている。彼は巨人サイズに成長したようだった。彼は隠遁所から私を連れ出し、見通すことのできない夜の暗闇にもかかわらず、道沿いに私を先導し、我々は共にゆっくりと歩いた。しばらくして、星々と月は協力して、我々の周囲にほのかな光を投げかけた。岩地の裂け目の周りと不安定に位置した非常に巨大な丸石の間を、マハルシが注意深く私を先導していることに私は気づいた。山は険しく、我々はゆっくりと登った。岩々と丸石の狭い裂け目に隠れ、密生した低木にかくまわれた、小さな隠遁所と人の住む洞窟が視界に入って来た。我々が通り過ぎる時、その住民たちは我々に挨拶しようと出てきた。彼らの姿は星明りの中で幽霊のような様相を呈したが、彼らが様々な類のヨーギであると私は認めた。我々は彼らのために立ち止まることなく、孤峯の頂きにたどり着くまで歩き続けた。我々はついに立ち止まり、何か重大な出来事が私に起ころうとしているという奇妙な予感で私の胸は高鳴っていた。

 マハルシは振り返り、私の顔をのぞき込んだ。それに応え、私は期待を込めて彼をじっと見上げた。私は心の中で謎めいた変化が非常な速さで起こっていることに気づいた。私を誘惑してきた古くからの動機は、私から去った。私の足をあちらこちらに運んできた切迫した欲求は、驚くほどの迅速さで消え去った。私の仲間との関係性を特徴づける嫌悪、不和、冷淡、利己性は、無の深淵へと崩れ去った。語ることのできない安らぎが私に降り注ぎ、私が人生から求めるべきものはこれ以上何もないことを今や私は知った。

 突然、マハルシは視線を山のふもとに向けるように私に言いつけた。私は素直にそのようにし、驚いたことに、地球の西半球がはるか下に広がっていることに気づいた。それは無数の人々で混み合っている。私はたくさんの人影として彼らをおぼろげに見分けたが、夜の暗闇はいまだ彼らを包み込んでいた。

 賢者の声が私の耳に届いた。彼の言葉はゆっくりと発された。

 「あなたがそこに戻る時、あなたが今感じている、この安らぎをあなたは味わうでしょう。しかし、その代価として、あなたはこれ以後、『私はこの体、もしくは、この脳である』という考えを捨て去ることになります。この安らぎがあなたに流れ入る時、あなたはあなた自身を忘れなければならないでしょう。なぜなら、あなたはそれにあなたの命を引き渡してしまっているだろうからです!」

 そして、マハルシは一筋の銀色の光の一端を私の手に置いた。

 その浸透する崇高さの感覚をいまだ持ったまま、私はその並外れて鮮明な夢から目覚めた。即座に、マハルシの目が私の目と合った。彼の顔は今や私の方向に向き、私の目をじっと見続けていた。

 その夢の背後に何があるのか。個人の人生の欲求や苦痛は、しばらくの間、忘却の彼方へと消えて行った。自らへの高貴な無関心、そして、私が夢の中で作りだした私の仲間への心からの憐れみのこの状態は、今、私が目覚めているにもかかわらず立ち去ろうとしない。奇妙な体験だ。

 しかし、その夢がその中に何らかの真実性を持つとしても、そのこと(体験?)は長く持つまい。それはまだ私にふさわしくない。

 どれぐらい私は夢の中に沈んでいたのか。というのも、講堂にいる全ての人が今や立ち上がり、寝るための準備をし始めたからだ。やむをえず、私も例に倣わねばならなかった。

 まばらに換気孔が設けられた、あの長い講堂で眠るのはあまりに息が詰まるので、私は中庭を選んだ。灰色のあご髭をした背の高い弟子が私のところに手さげランプを持ってきて、夜中ずっと灯し続けるように私に忠告した。蛇やチーターといった歓迎されない訪問者の可能性があるが、彼らは光に近づかないことが多い。

 地面はカラカラに固くなり、私はマットレスを持っていなかった。その結果、数時間、私は眠りに落ちなかった。しかし、問題なかった-私にはじっくり考えるべきことが十分にあった。マハルシの中で、人生がいまだ私の経験領域にもたらしたことのない最も謎めいた人格に出会ったと感じたからだ。

 賢者は私に相当な素晴らしい瞬間を運んだようだったが、その正確な性質をたやすく見定めることはできなかった。それはつかみどころがなく、計り知ることができず、おそらくは神聖なものだった。その夜、私が彼のことを思うたびに、あの鮮明な夢を思い出すたびに、奇妙な感覚が私を貫き、私の胸をおぼろげではあるが高尚な期待で高鳴らせた。

0 件のコメント:

コメントを投稿