『ヨーガ・ヴァーシシュタ』からの物語-Ⅲ
バリ王の物語
M.C.スブラマニアンによるサンスクリット語からの翻訳(*1)
ヴァーシシュタ曰く:
おお、ラグ族の満月よ、あなたもまた、バリのように、相違(多様性)の知覚を通じ、知恵を得られます。
シュリー・ラーマ曰く:
主よ!どうぞバリの知恵を得る方法を説いてください。あなたのような聖者らは、へりくだって近づく者たちに寛容です。
ヴァーシシュタ曰く:
世界のあるところに、パーターラとして知られる王国が地の下にあります。アシュラ(魔)たちに守られる、その巨大な王国に、ヴィローチャナの息子、バリという名の王がいました。全世界をあたかも児戯のごとくに征服し、自分自身を楽しみのあらゆる対象の支配者となし、彼はアシュラ族を数千万年統治しました。無限に長い年月(ユガ)が経過しました。無数のデーヴァとアシュラが生じては、倒れました。絶え間なく楽しみを享受することにより、やがてバリはそれらにうんざりしました。高所にある宮殿のテラスに座っている間、彼は以下のように考え始めました。「三世界の不可思議である我が王国、または、私が享受する多大な楽しみが何の役に立つのか。大きなものであれ、小さなものであれ、その楽しみが甘美であるのは、見せかけだけだ。それらは必然的に終わりを迎える。その中に何の幸福があるのか。人は繰り返し食べ、繰り返し妻を抱擁する。これは児戯のごとくであり、極めて恥じ入らせるものだ。どうして賢者が来る日も来る日も同じことを行うことに恥じ入らないのか。昼の後には夜が続き、行為の後には行為が続く。思うに、これは賢者にとっての関心事であるべきだ。同じ行為を毎日繰り返すことが何の役に立つのか。楽しみ以外の何ものかが、永続的な何ものかが存在するのか。私はこれに思いを凝らそう。」
このように考え、バリは熟考し始めました。眉を寄せて、彼は座り、思いに沈みました。終に、彼は心の中で思いました。「今や私は思い出した。我が父、自らを実現した人であり、世界の始まりと終わりを知ったバガヴァーン・ヴィローチャナに私はかつて尋ねた。私は彼に尋ねた。『父上、いつ全ての悲しみ、喜び、迷妄が終わりを迎えるのか、どうぞ私にお教えください。それらの限界とは何ですか。いつ心の迷妄は終わりを迎えるのですか。どれが熱情を免れた境地ですか。父上、どこに我々は変わらない安息を得るのですか。人が永遠に平穏に留まれる純粋な至福の境地があるのか、私にお教えください」。我が父は返答した。「我が息子よ、何千もの三世界を含む広大な領域が存在する。大地、空、海、山、森、聖水、川、湖はそこに存在しない。それはまばゆく輝く偉大なる王によって統治され、彼はあらゆることを行い、あらゆる所に行き、まさしく全てであり、全く沈黙している。彼の大臣は聡明に彼の意図を実行する。彼は困難な仕事を成し遂げるが、単純なことでしくじる。彼は何も楽しめない。また、彼は何も知らない。彼は王国のために止むことなくあらゆることを行う。彼は孤独な場所で一人暮らす王の唯一の代理人である』。私は尋ねた。『おお、高貴なる方よ、身体的および精神的病を免れる、その場所はどちらにありますか。一体、どのようにそれは達せられますか。誰かその道を知っていますか。この大臣とは誰で、全ての世界をたやすく征服している我々によって征服されていない王とは誰ですか。』
わが父は返答した。『我が息子よ!たとえ何十万のデーヴァとアシュラが突如として襲い掛かろうとも、その大臣を征服することはできない。彼に対して使われる剣、きね、投石器、ヴァジュラ、円盤、こん棒のような武器は、岩に向かって投げられた花のように崩れ落ちる。その大臣は山のように揺らぐことがないが、王が彼を征服することを望むなら、たやすくそうすることができる。我が息子よ!彼はある策略によってのみ征服しうる。というのも、怒った有毒なコブラのごとく、彼は彼に直接近づく誰をも滅ぼす。聞きなさい、わが息子よ!この王国の名を私はお前に告げよう。それは一切の悲しみを終わらせるモークシャ(解放)である。その王とは、一切の状態を超越する自ら(アートマン)である。大臣である賢者は、心である。感覚対象物への欲望が止むことが、その征服のための至高の策略である。それはまた、心である発情期の象を素早く制御するための策略でもある。もし人がすでに適切に指導を受けておらず、知恵を獲得したいならば、人はその心の四つの部分の二つを楽しみの享受に充て、第三の部分を聖典の学習に、第四の部分をグルへの奉仕に充てるべきである。すでに何らかの指導を受けている者は、一つの部分を楽しみに、二つの部分をグルへの奉仕に、一つの部分を聖典の意味の熟慮に充てるべきである。十分に指導されている者は、常にその心の二つの部分を聖典の学習と離欲の修養に、他の二つの部分を観想とグルへの奉仕に充てるべきである。そのように知恵と観想によって、わが息子よ、人は心の制御を獲得し、欲望を断ち、自らを実現すべきである。感覚的喜びの中の邪悪を認識は、人を観想に導き、観想から感覚的喜びの中の邪悪の認識が生じる。海と雲のごとく、それらは互いに補い合っている。愛する者よ!お前の国の習慣に従い、もっとも非難されない方法を通じて富を獲得せよ。有徳の人々との交際を真摯に培うために、それを使え。彼らとの交際と注意深い思考により培った、感覚的楽しみに対する離欲の助けによって、お前は自らを実現する』」。
バリは心の中で思いました。「深遠な思索家であった父から、私はこれを以前に教わっていた。今や幸運にもそれを思い出し、私は真理を知った。私は今や五感の楽しみに対する完全な離欲を培った。幸運にも、私は神酒のごとき涼やかな静穏の喜びを得た。喜びと悲しみが平然と眺められる内なる静穏の境地の美しさは、素晴らしいものだ。私は誰か。この自ら(アートマン)とは何か。私は自らを実現したグル、ウシャナス(*2)に尋ねよう」。
それに従い、バリは天空の寺院に住むシュクラについて黙想しました。やがて、バールガヴァ(*2)の姿をした全てに行き渡る無限の意識が、バリの館の宝石で飾られた窓に現れました。バリは貴重な宝石と香り高い花々の贈り物で彼を歓迎し、彼の足もとに平伏しました。彼は言いました。「太陽の光が人々が仕事を行えるようにするのとまさしく同様に、あなたの恩寵もまた私に、ある問題についてあなたに尋ねさせます。ここに実際存在するのは何ですか。そして、その限界とは何ですか。この体とは何ですか。この人とは誰ですか。私は誰ですか。あなたは誰ですか。これらの世界とは何ですか。どうぞ私にお教えください」。
シュクラは答えました。「長々と話すべき何がありますか。私は天界へ行く途中なのです。おお、全アシュラの王よ!私はあなたに精髄を簡潔に告げましょう。お聞きなさい!意識のみが存在します。この世界は意識に他ならず、あなたは意識であり、私は意識であり、(様々な)世界は意識です。あなたが賢明であるなら、この確信を通じ、あなたはあらゆるものを得ます。そうでないなら、何度それを繰り返し言われても、(供儀の火の)灰の上に置かれた供物のごとく、それは無駄になります。思いによってかき乱された心が、束縛です。思いからの自由が、解放です。思いのない意識が、自ら(アートマン)です。これがヴェーダーンタの教えの全てです。この結論を受け入れ、真理を悟った理解でもって、あらゆるものを観察しなさい。あなたは無限の自らの境地を自動的に得ます。今、私は天界に行くところで、そこには七人の賢者が集っています。デーヴァ族に関連した務めのために、私はそこに出席しなければなりません」。
こう述べた後、バガヴァーン・シュクラは空に立ち上りました。バリは、「この世界は意識である」という言葉に思いを凝らしました。彼は心の中で思いました。「バガヴァーンによって言明されたことは、理に適っている。三世界は意識でしかない。私は意識であり、これらの世界は意識である。この住まい(方位、地域?)は意識であり、行為は意識である。私は対象物とその知覚についての一切の考えを確かに免れている。私は絶対的に純粋である。私は常に知性である。私は別の知性に依存していない。私はあらゆるものを認識する至高の主である。私は一切の概念を免れた意識である。私は全世界に内に外に行き渡っている。私の一切の知覚対象は終わりを迎えた。私はまさに偉大なる意識である!」
このように思い、極めて賢明なバリは、オームのアルダ・マートラ(*3)に黙想し始めました。何らの心の概念や想像、思う者‐思い‐思いの対象という観念もなく、バリは風のない場所に置かれた灯火のごとく真理を悟ったまま留まり、しばらくして至高の境地を得ました。その一切の欲望を消し去り、その心は一切の思いを免れ、バリは雲によって覆い隠されない秋空のごとく純粋な意識になりました。
バリの配下であったアシュラたちが彼の宮殿に行った時、彼らは彼が概念のない瞑想に没頭しているのを見つけました。しかし、長い時間たって、彼は目覚めました。それから、「私」、もしくは、「私のもの」という考えをまるで持たずに、彼は全ての王の義務に従事し始めました。彼は平等なまなざしで成功と不運を見ました。彼の知恵は、喜びや悲しみのために、増すことも減ることもありませんでした。彼は何千もの希望と失望を抱き、何百もの利益と損失を得ましたが、彼は何も気にかけませんでした。
今世と来世の物事を追い求める、この心を制御し、そして、世俗の活動に没頭しなさい。心をハートの洞窟に留めなさい。それは子供のようです。それが何かに夢中になる時はいつも、その場で直ちにそれを引き起こし、それを現実に定めなさい。このように心という野生の象を訓練し、四方八方でそれを縛ることによって、人は無上の至福を得ることができます。
原注↓
(*1)この連載の以前の回もまた、彼によって翻訳されました。
(*2)アシュラ族のグル、シュクラーチャーリヤの別名。
(*3)オーム、つまり、ブラフマンの最後の聞こえない音。