2015年3月30日月曜日

『A Search in Secret India』 第9章 ③マハルシとの対話-(1)

◇『秘められしインドでの探求(A Search in Secret India)』 邦題:秘められたインド

 昼食が済んだ。太陽は、私が以前に一度も経験したことがない程度にまで、午後の気温を無慈悲に上昇させる。そもそも、我々は今、赤道からそれほど遠くない緯度にいる。今度ばかりは、インドが活動を助長しない気候に恵まれていることを私はありがたく思った。なぜなら、ほとんどの人が、シエスタをとるために日陰になった木立の中へ姿を消すからだ。そのため、私は、不要な注目や騒ぎもなく、私が好む方法でマハルシに近づくことができた。

 私は広い講堂に入り、彼の近くに座った。彼は、寝椅子の上に置かれた白いクッションに、半ばもたれかかっている。付添人が、プンカーを動かす紐をたゆみなく引っ張る。穏やかな縄のきしむ音とうちわが風を切る優しげな音が、蒸し暑い空気の中を進み、私の耳に心地よく響く。

 マハルシは、折りたたまれた手書きの本を手に持っている。彼は極めてゆっくりと何かを記している。私が入って数分後、彼は本を脇にやり、弟子を呼んだ。二言三言、彼らの間でタミル語で交わされ、その人は、私が彼らと食事を共にできないことが残念であると彼の師が重ねて述べたいと思っていると私に伝えた。彼は、彼らが質素な生活を送っていて、以前にヨーロッパ人に料理を提供したことが一度もないため、ヨーロッパ人が何を食べるのか分からないと説明した。私はマハルシに感謝し、彼らの香辛料が使われてない料理を彼らと喜んで共にし、その他は町区から食べ物を手に入れると言った。彼の隠遁所に私を連れてきた探求よりも、私が食事の問題をはるかに重要でないとみなしていることを私は言い足した。

 賢者は熱心に耳を傾けた。彼の表情は穏やかで、少しも動揺せず、当たり障りのないものだ。

 「それは良い目的です」と彼はようやく意見を述べた。

 これに励まされ、私を同じテーマについて詳しく述べた。

 「師よ、私は西洋哲学と科学を学び、混み合った都市の人々の間で生活し、働き、彼らの楽しみを味わい、彼らの野心の対象に捕らわれるがままに任せていました。しかし、私はまた、孤独な場所へ行き、そこで、深い思索の孤独のただ中をさ迷いもしました。私は西洋の賢者たちに質問しました。今や、私は東洋に顔を向けています。私はさらなる光を探し求めています。」

 「ええ、よく分かりました」と言うかのように、マハルシはうなずいた。

 「私は多くの見解を聞き、多くの理論に耳を傾けました。あれこれの信条の知的な証拠が、私の周りいっぱいに積み重なっています。私はそれらが嫌になり、個人的体験によって証明できない何にでも懐疑的です。そのように言うことをお許しください。ですが、私は宗教的ではないのです。人の物質的存在を超える何かが存在するのでしょうか。もしそうなら、私はどのようにしてそれを自ら実現できますか。」

 我々の周りに集まっていた3、4人の信奉者たちは、驚いて目を見開いた。彼らの師にそのようにぶっきらぼうに、大胆に話しかけることによって、私は隠遁所の微妙な礼儀作法にそむいているのか。私には分からなかった。気にしなかったのかもしれない。長年の望みの蓄積した重みが、思いがけなく私の支配をのがれ、私の口をついて出た。もしマハルシがふさわしい人であるなら、彼は理解し、慣習からの単なる逸脱を払いのけるに違いない。

 彼は言葉での返答をせず、何らかの思考の流れに沈んでいるように見えた。他にすべきことが何もなかったため、そして、私の舌は今や軽くなっていたため、私は三たび彼に話しかけた。

 「西洋の賢者たち、我々の(国の)科学者は、その利口さのために非常に尊敬されています。けれども、彼らは、自分たちが生命の背後にある隠された真理に少しだけしか光を投げかけることができないと認めています。あなたの国には、我々の西洋の賢者たちが明らかにし損なっているものを与えることができる人がいくらかいると言われています。それは本当でしょうか。あなたは私が悟りを体験するのを手助けできますか。それとも、探求それ自体が、錯覚に過ぎないのでしょうか。」

 私は今や会話の目的に達し、マハルシの返答を待とうと決めた。彼は考え深げに私をじっと見続けた。おそらく、彼は私の質問をじっくり考えているのだろう。沈黙の中、10分が経過する。

 ついに、彼は口を開き、静かに言った。

 「あなたは私と言います。『は知りたい』と。その私とは誰か、私に教えてください。」

 彼は何を言わんとしているのか。彼は今や通訳の奉仕を無視し、私に直接、英語で話しかけた。戸惑いが私の脳にじわじわ広がる。

 「申し訳ありませんが、私にはあなたの質問が理解できません」、私は呆然として返答した。

 「はっきりしていませんか。もう一度考えてみなさい!」

 今一度、彼の言葉に頭を絞った。ある考えが、私の頭にひらめいた。私は私自身を指さし、私の名前に言及した。

 「それで、あなたは彼を知っていますか。」

 「生まれてこの方ずっと!」、私は彼に微笑み返した。

 「しかし、それはあなたの体でしかありません!今一度、問います。『あなたは誰ですか。』」

 私は、この並外れた質問への答えを即座に見出せなかった。

 マハルシは続けて言った。

 「まずは、その私を知りなさい。そうすれば、その時、あなたは真理を知るでしょう。」

 私の心は、再び朦朧とした。私は非常に困惑した。この戸惑いを言葉で言い表すことはできた。しかし、マハルシは、どうやら彼の英語の限界に達したようだった。というのも、彼は通訳のほうを向き、回答がゆっくりと私に翻訳されたからだ。

 「なすべきことはただ一つです。あなた自身を見つめなさい。これを正しい方法で行いなさい。そうすれば、あなたの一切の問題への答えをあなたは見出すでしょう。」

 それは奇妙な返答だった。しかし、私は彼に尋ねた。

 「人は何をなさねばならないのでしょうか。どんな方法を私は実行できますか。」

 「自分自身の本質の深思を通じて、そして、絶え間のない瞑想を通じて、光は見つかります。」

 「私はたびたび真理への瞑想に没頭していましたが、進歩の兆しが見えません。」

 「進歩していないと、どうして分かるのですか。靈的領域で人の進歩に気づくことは簡単ではありません。」

 「師の助けは必要でしょうか。」

 「かもしれません。」

 「師は、あなたが提案した方法で、人が彼自身を見つめるのを手助けできますか。」

 「師は、この探求に彼が必要とする一切を彼に与えることができます。そういったことは、個人的体験を通じて知ることができます。」

 「師の助けによって、何らかの悟りを得るためには、どれぐらいかかりますか。」

 「それは全く探求者の心の成熟性しだいです。火薬は一瞬で着火しますが、石炭に火をつけるのには多くの時間を要します。」

 賢者が師らと彼らの方法の話題を議論するのを好まないという奇妙な印象を私は受けた。それでも、私の心の粘り強さは、この印象を乗り越えるほど十分に強く、私はこの事柄について彼にさらなる質問をした。彼は無表情な顔を窓に向け、向こうの丘陵の多い景観の広がりをじっと見つめ、答えを与えなかった。私はその意図を感じ取り、その話題を打ち切った。

 「世界の未来について見解を示してくださいませんか。我々は危機的な時代に生きているのですから。」

 「未来について、どうしてあなたが気を揉まねばならないのですか」と賢者は問いただした。「あなたは現在について正しく知りさえしていません!現在の面倒を見なさい。そうすれば、その時、未来は自分で自分の面倒を見るでしょう。」

 さらなるすげない拒絶!しかし、今回、私はそう易々と降参しなかった。というのも、この平和な密林の避難所よりも遥かに重く、人生の悲劇が人々にのしかかっている世界から私は来たのだから。

 「世界は、じきに、友好と相互扶助の新たなる時代に入るでしょうか。それとも、混沌と戦争へ陥るのでしょうか」と私は食い下がった。

 マハルシは全く嬉しく思っていないようだったが、それでも、彼は返答した。

 「世界を統治する一者が存在します。世界の世話をするのは、の務めです。世界に命を与えたが、世界の世話の仕方もまた知っています。が、この世界の重荷を背負っています。あなたではありません。」

 「ですが、人が公平な目で周りを見渡すなら、恵み深い配慮の出番がどこにあるのか理解することは困難です」と私は異議を唱えた。

 賢者は、より一層、嬉しくなさそうに見えた。だが、彼の答えはやって来た。

 「あなたがあるがごとく、世界はあります。あなた自身を理解せずに、世界を理解しようと試みることが何の役に立ちますか。それは真理の探求者が考慮する必要のない質問です。人々は、そういった質問全てに力を浪費します。まずは、あなた自身の背後にある真理を見出しなさい。そうすれば、その時、あなた自身がその一部である、世界の背後にある真理を理解するのにより良い立場にあなたはいるでしょう。」

 不意の中断があった。付添人が近づき、別の線香に火をともした。マハルシは青い煙が渦を巻いて上に登るのを見て、その後、彼の手書きの本を手にとった。彼はページを開き、再びそれに取り組み始め、そうして、私を彼の注意領域から退けた。

 この彼の再びの無関心は、私の自尊心に冷や水のごとく働いた。私はさらに15分間座って過ごしたが、彼が私の質問に答える気にないことが見て取れた。我々の会話は本当に終わったのだと感じ、私はタイル張りの床から立ち上がり、両手を合わせて別れの挨拶をし、彼のもとを離れた。

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