2015年3月14日土曜日

『A Search in Secret India』 第8章 ③聖下シュリー・シャンカラとの謁見

◇『秘められしインドでの探求(A Search in Secret India)』 邦題:秘められたインド

 私は黙ったまま彼を見た。この背の低い男性は、黄土色の僧衣を身につけ、修道士の杖に体重を預けている。私は彼が40歳手前であると知らされていた。そのため、彼の髪にかなり白髪が混じっていることに気づいて驚いた。

 彼の気品ある顔つきは、心の中で灰色と茶色で描かれ、私の記憶の中の長い肖像画の画廊で名誉ある地位を占めている。フランス人がスピリチュエルと適切に呼んだ、あの捉え難い要素が、この顔には存在する。彼の表情は慎み深く、温和であり、その大きな黒い瞳は並外れて穏やかで、美しい。鼻は低く、真っ直ぐで、模範的に均整がとれている。顎にはぼさぼさの小さい髭があり、彼の口元の厳粛さは注目に値する。この人がさらに知性という性質を所有しているという点を除けば、そのような顔立ちは、中世のキリスト教団を輝かしいものにした聖者の一人に属していたかもしない。実際的な西洋に属する我々は彼が夢想家の目をしていると言うだろうと私は思った。どういうわけか、表現できない方法で、彼の厚いまぶたの背後に単なる夢以上の何かがあると私は感じた。

 「私を迎え入れて下さり、誠にありがとうございます」と私は前置きとして述べた。

 彼は私の連れ合いである作家の方を向き、その土地の言葉で何か話した。私はその意味を正確に推察した。

 「聖下はあなたの英語を理解しますが、あなたが彼の英語を理解できないであろうことを大変に懸念しています。ですから、彼は答えを私に翻訳してもらうことを選びます」とヴェンカタラマニは言った。

 彼らがここにいるヒンドゥー教の大主教よりも私自身に関心があったために、私はこの対談の初期段階をさっと通り抜けたのだろう。彼はこの国での私の個人的な体験について尋ねた。インドの人々と制度が外国人に与える正確な印象を確かめることに彼はとても興味があった。称賛と批判を自由に、遠慮なく織り交ぜながら、私の率直な印象を彼に伝えた。

 その後、会話はより幅の広い水路に流れ入り、彼が日ごろから英字新聞を読み、外の世界の時事に精通していることを知って私はとても驚いた。実際、彼はウエストミンスターでの最近の騒ぎはどうなのか知らないわけではなく、民主主義の厄介な赤ん坊がどれほどの痛々しい陣痛をヨーロッパで経験しつつあるのかもまた十分に知っていた。

 シュリー・シャンカラが預言的な洞察力を所有しているというヴェンカタラマニの断固たる確信を私は思い出した。それは世界の未来について何らかの意見を催促するという私の気まぐれな思いを引き起こした。

 「政治的、経済的状況が至る所で改善し始めるのはいつだと思いますか。」

 「改善が早急に訪れるのは容易なことではありません」と彼は答えた。「それはいくらか時を要さねばならない過程です。国々が一年ごとにいっそう多くのお金を死の武器に費やしている時、どうして物事が改善できますか。」

 「しかしながら、この頃は、非武装化についての協議もたくさんあります。それは考慮に値しませんか。」

 「あなたが戦艦を解体し、大砲を錆びさせても、それによって戦争は止まらないでしょう。たとえ人々が棒きれを使わざるを得なくても、彼らは戦い続けるでしょう!」

 「しかし、事態を改善するために何ができるのでしょうか。」

 「国々の間、富める者と貧しい者の間の精神的理解のみが、友好的な態度を作り出し、そうして、本当の平和と繁栄をもたらすでしょう。」

 「それは遥か遠いことのように思えます。それでは、我々の展望はまったく明るいものではないのですね?」

 聖下は、彼の手をさらに少し重く杖に寄りかからせた。

 「神は、それでも、存在します」と彼は穏やかに述べた。

 「たとえ存在しても、彼は遥か彼方にいるようです」と私は大胆にも主張した。

 「神は、人類に対してただ愛のみを持っています」と柔和な答えがやって来た。

  「この頃、世界を苦しめる不幸と悲惨から判断すれば、彼はただ無関心しか持っていません」と声から痛烈な皮肉の響きを締め出すことができずに、私は衝動的に突然叫んだ。聖下は、いぶかしげに私を見た。すぐさま、私は自分の軽率な発言を悔いた。

 「忍耐強い人の目は、より深く見ます。神は、定められた時に物事を調整するために人間の道具を使うでしょう。国家間の混乱、人々の間の道徳的邪悪さ、哀れな民衆の苦しみは、反作用として、神から啓示を受けた偉大なる者が助けに来ることをもたらすでしょう。この意味において、あらゆる世紀には、それ独自の救世主がいます。その過程は物理学の法則のように働きます。靈的無知や物質主義によって引き起こされる悲惨さがより大きくなるにつれ、世界を救うために立ち上がる者はより偉大になるでしょう。」

 「では、我々の時代にも誰かが立ち上がることをあなたは期待しているのでしょうか。」

 「我々の世紀に」と彼は訂正した。「間違いありません。世界の必要性はとても大きく、その靈的暗闇はとても濃いため、啓示を受けた神の子が確かに立ちあがるでしょう。」

 「では、あなたの意見では、人はより堕落しつつあるのですか。」

 「いいえ、そうは思いません」と彼は寛大に返答した。「人の中には内に住まう神聖なる魂が存在し、最後には、それが彼を必ず神へ連れ戻します。」

 「しかし、我々の西洋の都市には、彼らの中に内に住まう悪魔が存在するかのように振る舞う無法者が存在します」と現代のギャングのことを考えながら、私は反論した。

 「人々ではなく、むしろ彼らが生まれた環境を責めなさい。彼らの周囲の状況や境遇が、彼ら本来よりも悪くなるように彼らに強いています。それは東洋にも西洋にも当てはまります。社会は、より優れた目的に調和させられねばなりません。物質主義は、理想主義によって釣り合いを保たれねばなりません。世界の困難への本当の解決策は他に存在しません。失敗がたびたび別の道を指し示す道しるべになるのとまさしく同様に、国々が至る所で陥っている問題は、実のところ、この変化を強いる、もがき苦しみなのです。」

 「では、あなたは人々が彼らの世俗的な関係に靈的な道徳律を導入することを望んでいるのでしょうか。」

 「まさしくそうです。それは実践不可能ではありません。なぜなら、それは最終的に全ての人を満足させ、そして、足早に消え去らないであろう結果をもたらす唯一の方法だからです。そして、仮に靈的な光を見出した人がより多く世界に存在するなら、それは一層素早く広がるでしょう。インドは、名誉あることに、その靈的な人々を支え、尊敬しています-前の時代より、そうではなくなっていますが。仮に全世界が同じことをするなら、そして、靈的な見識を持つ人々から導きを受けるなら、全世界はすぐに平和を見出だし、次第に繁栄するでしょう。」

 我々の会話は長引いた。シュリー・シャンカラが、彼の国の実に多くの人々がするように、東洋をほめそやすために西洋をけなそうとはしないことに私はすぐに気づいた。それぞれ地球の半分が、それ独自の美徳と悪徳一式を所有しており、その点において、それらは大体等しいと彼は認めた!より賢明な世代がアジアとヨーロッパ文明の最良の点を融合させ、調和のとれた、より優れた社会計画を作ることを彼は望んでいた。

 私はその話題を中断し、プライベートな質問の許可を求めた。それは難なく許された。

 「聖下は、どれぐらいの間、その称号を保持しているのでしょうか。」

 「1907年以来です。当時、私はたった12歳でした。任命から4年後、私はカーヴィリ川沿いの村へ隠遁し、そこで3年間、瞑想と勉学に専念しました。その後に初めて、私の公的な務めが始まりました。」

 「あなたはクンバコーナムの本山にほとんど留まらないと私は理解していますが。」

 「その理由は、1918年にネパールのマハーラージャにしばらく彼の客人となるように私が求められたからです。私は受け入れ、その時以来、はるか北にある彼の県に向かってゆっくり旅し続けています。しかし、見て下さい!-その何年もの間中に、私はせいぜい2、3百マイルしか進むことができていません。なぜなら、私の役目の伝統が、あまりにも遠く離れていなければ、私が向かう途中で通るか、もしくは、私を招待する全ての村や町に滞在することを求めるからです。私は地元の寺院で靈的な講話を話し、何らかの教えを住民に授ければなりません。」

 私は私の探求の問題を切り出し、聖下は私がこれまで出会った様々なヨーギや聖者について質問した。その後、私は率直に彼に言った。

 「ヨーガにおける優れた達成を得ていて、その何らかの類の証拠を提示できるか、実演できる人に私は会いたいのです。あなたの(国の)聖者の多くは、この証拠を求められると、話をさらにもう一つすることしかできません。私はあまりに多くを求めているのでしょうか。」

 穏やかな目が私の目と合わさった。

 丸々1分間、沈黙があった。聖下はあご髭を指で触った。

 「あなたが高度な類の真のヨーガへの手ほどきを求めているのなら、あなたはあまりに多くを求めているわけではありません。あなたの熱意が、あなたを手助けするでしょう。私はあなたの決意の力を感じることができます。ですが、光があなたの内で目覚め始めています。それは、疑いなく、あなたが欲するものへあなたを導くでしょう。」

 私は私が彼の言うことを正しく理解したのかどうか分からなかった。

 「これまで、指針として私は自分自身に頼って来ました。あなたの(国の)古の賢者たちの何人かさえも、我々自身の内にいる神より他に神は存在しないと言います」と私は思い切って言った。

 すると、答えは速やかにやって来た。

 「神はあらゆる所にいます。どうして彼を自分自身に限定することができますか。彼は全世界を支えています。」

 私の手にあまりつつあると私は感じ、すぐさま、このやや神学的な調子から会話をそらした。

 「私が進むべき最も実践的な道とは何でしょうか。」

 「あなたの旅を続けなさい。あなたが旅を終えた時、あなたが出会った様々なヨーギや聖者について考えなさい。その後、あなたに最も訴えかける人を選び出しなさい。彼のもとへ戻りなさい。そうすれば、彼が必ずや彼の手ほどきをあなたに授けるでしょう。」

 私は彼の穏やかな横顔を見て、その並外れた落ち着きに感心した。

 「しかし、仮に、聖下、彼らの誰もが十分に私に訴えかけなければ、その時は、どうすれば。」

 「その場合、神自身があなたを手ほどきするまで、一人で進まねばならないでしょう。日ごろから瞑想を修練しなさい。あなたの心の中で、愛を持って、高尚な事柄を観想しなさい。魂についてよく思いなさい。そうすれば、そのことが、あなたを魂へ連れゆく助けになるでしょう。修練する最良の時間は、目覚める時です。次に最も良い時間は、薄明(はくめい)の時です。それらの時間に世界はより穏やかになり、あなたの瞑想を妨げることが少なくなるでしょう。」

 彼は慈愛深く私を見つめた。彼の髭のある顔に住まう、聖者にふさわしい安らぎを私はうらやましく感じ始めた。本当に、彼の心は、私の心に傷跡を残している破壊的な混乱を一度も経験したことがないのか。私は衝動的に彼に尋ねるように駆り立てられた。

 「もし私が失敗すれば、その時は、あなたの援助を仰いでもよろしいでしょうか。」

 シュリー・シャンカラは静かに首を振った。

 「私は公的機関の指導的立場にあり、時間がもはや自分自身のものではない人間です。私の活動は、私のほぼ全ての時間を要求します。数年間、毎晩、私は睡眠に3時間だけ費やしています。どうして私が個人的な弟子をとれますか。あなたは自分の時間を弟子に注いでいる師を見つけねばなりません。」

 「しかし、真の師はめったにおらず、しかも、ヨーロッパ人が見つけ出すことはありそうもないと私は伺っています。」

 彼はうなずいて私の発言に同意したが、言い添えた。

 「真理は存在します。それは見出せます。」

 「そのような師、私に高次のヨーガが実在する証拠を示す力のある者への道を私に教えることはできませんか。」

 長引く沈黙の間の後、聖下はようやく答えた。

 「ええ。あなたが望むものをあなたに与えられるであろう師を、私はインドで二人だけ知っています。彼らの一人はベナレスに住んでいて、大きな家の中に人目を離れ隠され、家自体が広大な庭園の中に隠されています。彼に近づくことを許される人はほとんどいません。もちろん、彼の隠遁所に立ち入ることのできたヨーロッパ人は未だにいません。私はあなたを彼のもとへやることはできますが、ヨーロッパ人が入ることを彼が拒むのではないかと危惧しています。」

 「では、もう一人は-?」 私の興味は妙にかき立てられた。

 「もう一人の人は内陸に、さらに南に住んでいます。私は彼を一度訪れたことがあり、彼が崇高な師であると知っています。私はあなたが彼のもとへ行くことを勧めます。」

 「彼は誰ですか。」

 「彼はマハルシと呼ばれています。私は彼に会ったことはありませんが、彼が崇高な師であると知っています。あなたが彼を発見できるように、詳しい指示をあなたに提供しましょうか。」

 私の心の目の前に、ある心象がさっと浮かんだ。

 私は黄色のローブをまとった修道士を見た。彼は彼の先生のもとへ同行するように私を説得したが、無駄だった。私は彼が山の名前をささやくのを聞いた。それは、「聖なるかがり火の山」だった。

 「どうもありがとうございます、聖下」と私は答えた。「ですが、私にはその場所からやって来た案内人がいます。」

 「では、あなたはそこへ行くのですか。」

 私はためらった。

 「明日、南部から発つための全ての手はずが整えられています」と曖昧につぶやいた。

 「もしそうなら、あなたに一つお願いがあります。」

 「喜んで。」

 「あなたがそのマハルシに会わないうちは、南インドを離れないと私に約束して下さい。」

 私を助けたいという真摯な願いを彼の目に私は読みとった。約束は結ばれた。

 慈愛深い笑顔が、彼の顔を横切った。

 「心配しないで。あなたはあなたが探し求めるものを発見するでしょう。」

 路上にいる群衆からの不満のつぶやきが、家を貫いた。

 「私はあなたの貴重な時間をあまりにも取りすぎてしまいました」と私は謝罪した。「誠に申し訳ありません。」

 シュリー・シャンカラの厳粛な口元が緩んだ。彼は私の後について控えの間に入り、私の連れ合いの耳に何かささやいた。私はその文の中に私の名前を聞き取った。

 別れの挨拶にお辞儀をするため、玄関で私は振り返った。聖下は私を呼び戻し、(私は)別れのメッセージを受け取った。

 「あなたはいつも私を思い起こすでしょう。そして、私はいつもあなたを思い起こすでしょう!」

 そうして、この謎めいた、まごつかせる言葉を聞き、幼少期から神に全人生を捧げている、この興味深い人の前から私はしぶしぶ引き下がった。彼は世俗的な権力を求めない管長だった。なぜなら、彼は一切を放棄し、一切を断念していた。物質的なものが何であれ彼に与えられても、彼はそれを必要とする人々に再びすぐに与える。彼の美しく、温和な人格は、きっと私の記憶の中に留まり続けるだろう。

 私は夕方までチングレプットをぶらつき、その芸術的な、古風の美を探索し、それから、家に帰る前に、最後に一目見ようと聖下の姿を探した。

 私はその町で最も大きい寺院で彼を見つけた。ほっそりした、慎み深い、黄色のローブをまとった人物が、男性と女性と子供からなる大群衆に教えを説いている。大勢の聴衆の中に、全くの静寂が行き渡る。私は彼の現地の言葉を理解できないが、知的なバラモンから文字の読み書きができない農夫まで、参加者すべての注意を彼は深く引きつけている。私には分からなかったが、彼が最も深遠な話題について最も簡単な方法で話していると私は大胆に推測した。私が彼の中に読み取った性格が、そういうものだったからだ。

 それでも、私は彼の美しい魂を高く評価していたが、膨大な聴衆の素朴な信仰心を私はうらやましく思った。人生は、見たところ、彼らに深い疑惑の気分を少しももたらしていないようだ。神は存在する。それで、一見落着である。世界が残酷な弱肉強食の闘争の現場のように見える時に、神がぼんやりした無へ後退する時に、そして、人間の存在自体が、我々が地球と呼ぶ、全宇宙のこのはかない小さな断章を横切る断続的な一節に過ぎないように思える時に、魂の暗い夜を経験するとはどういうことなのか彼らは知らないようだ。

 星がちりばめられた藍色の空の下、我々はチングレプットから車を走らせた。突然のそよ風の中、水辺の上でその枝を雄大に揺らすヤシの木々に私は耳を傾けた。

 私の連れ合いが突然に我々の間の沈黙を破った。

 「あなたは実に幸運です!」

 「どうしてですか。」

 「なぜなら、これは聖下がヨーロッパ人の作家に許した最初の会談だからです。」

 「では-?」

 「それはあなたに彼の祝福をもたらします!」
 

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