2016年5月29日日曜日

ガーディの物語 - 不可思議なマーヤーの働きを体験したバラモン

◇「山の道(Mountain Path)」、1975年7月、p173~175

『ヨーガ・ヴァーシシュタ』からの物語-Ⅴ


ガーディの物語

M.C.スブラマニアンによるサンスクリット語からの翻訳

ヴァーシシュタ曰く:
 おお、ラーマ!サンサーラと呼ばれる、この幻には、終わりがありません。自制によってのみ、それに終焉をもたらすことができます。その並外れた力を例示する物語をあなたに話しましょう。注意深く聞きなさい。

 コーサラ王国に、ガーディという名のバラモンがいました。彼はかつて家を離れ、禁欲行を修練するために森の中に進みました。鮮やかな褐色のハスが生えた池を見つけ、彼はその中に入り、首まで水に浸かって立ち、禁欲行を修練しました。8か月の終わりに、ビシュヌが彼の前に現れ、言いました。「おお、バラモン!水から出なさい。あなたの欠点のない禁欲行は実を結びました。あなたが好む、どんな願いでも求めなさい」。ガーディは言いました。「主よ!サンサーラと呼ばれる不可思議なマーヤーの本質を私は理解したいと思います」。ヴィシュヌは言いました。「あなたは今や私のマーヤーを見るでしょう。それを見た後、できるならばそれを乗り越えなさい」。このように言い、ビシュヌは姿を消しました。

 これを目にした後、ガーディは水から出てきました。世界の主を目にし、彼はとても幸福でした。彼はバラモンに定められた禁欲行に従事して、その森の中でさらに数日過ごしました。ある日、朝の沐浴をするために彼は湖に行きました。沐浴に先立つ儀式を終えた後、彼は水に足を踏み入れ、ひと浴びしました。まさにその瞬間、彼はつぶやいていたマントラを忘れ、いつものように瞑想することができませんでした。景色が完全に変化しました。大変悲しいことに、気づけば彼は、親族に囲まれ、彼自身の家の中で死んでいました。悲しみに打ちひしがれ、彼の妻は彼の足下に座り、彼の母親は彼のあごを撫でていました。次に彼は、彼の体が死体の残骸が散乱した火葬場に運ばれ、赤々と燃える火の中で燃やされ灰になるのを見ました。

 その後、彼が極めて苦悶したことに、彼が見たのは、村はずれのフナ(低いカースト:フン)の間で生活するスヴァパチャ(犬食い)という低いカーストに属する女性の子宮の中に悲嘆にくれて横たわっている自分自身でした。そのうちに、気づけば彼は、スヴァパチャの黒い顔色の赤子として生まれていました。彼はその家で幼少時代を過ごし、一家の寵児でした。彼は、その後、少年へと成長し、16歳になりました。彼は背丈が高く、肩幅が広く、厚い雲ごとく黒色でした。彼に心魅かれた彼のカーストのある若い女性が、木のつるのように彼にくっついて離れませんでした。彼女の胸は花束のように柔らかく、彼女の手はみずみずしく柔らかな葉のようだと彼は思いました。彼は森の木陰で彼女と戯れ、山の洞窟の中で彼女と共に眠り、葉の茂ったあずまやに彼女と共に座り、茂みの中に彼女と住み、彼の家系を存続するために彼女と子をもうけました。そのように結婚し、裕福な彼は、じきにその若さを失いつつあることに気づきました。彼は、その後、他の人々からいくらか離れた所に葉っぱでできた小さな小屋を自ら建て、隠者のごとくそこで生活しました。彼は自分自身が年を取り、弱り、息子たちが成長していくのを見ました。その後、彼は彼の家族全員が死に奪い去られるのを目にしました。彼は悲嘆にくれ、絶え間なくすすり泣いたことでその顔は腫れあがりました。

 彼は、その後、その国を離れ、深い悲しみと不安に沈んで放浪しました。放浪するうちに、彼はケーラ王国の首都にやって来ました。彼は王の公道に沿って歩み、それは天(スヴァルガ)に通じる道のように見え、高貴な生まれの男女でいっぱいでした。彼は目の前に宝石で装飾された門と山ように巨大な見事な象を目にし、象は亡くなった王の跡継ぎを探してあちらこちらに動き回っていました。彼が象を見ると、象はその美しい鼻を彼に巻き付け、持ち上げ、大変な敬意をもって彼をその背中にのせました。彼はメール山にかかる太陽のごとくに見えました。彼が象に座るや否や、太鼓が四方から鳴り響き、「王に勝利あれ」と言い、歓呼して彼を迎える人々の歓声で空は満たされました。美しい女性たちが、その後、彼を宮殿に連れ行き、王ごとく彼を着飾りました。全ての人々が彼に敬意を払いました。

 かくして、スヴァパチャ(つまり、ガーディ)はケーラ王国を手に入れました。彼の蓮華の御足はその王国の美しい女性たちの柔らかい手でマッサージされました。すぐに彼はその王権を国土のすみずみまで広げ、彼の命令は至る所で遵守されました。彼は王国の秩序を回復し、大臣たちの助けを得て、国をとてもうまく統治しました。彼はガラヴァ王として知られるようになりました。

 美しい少女たちに囲まれ、大臣たちに大いに敬われ、貴人全員に尊敬され、王にふさわしい傘の下に座り、王にふさわしいハエ払いで扇がれて、彼はケーラ王国を8年間統治しました。それから、ある日、王の記章のない普段着で、彼は何気なく宮殿の外に出ました。程なくして彼は、弦楽器を演奏しているスヴァパチャのキャンプに出くわしました。彼らの一人、赤い目をした老人が立ちあがり、彼に近づき、カタンジャと親し気に彼に呼びかけました。彼は言いました。「おお、カタンジャ、私の親族よ、今どこに住んでいるんだい。私は幸運にも、あなたに、私の古い親戚に出会った。森のどこに今まで住んでいたんだい」。

 その老人がそれらの言葉を話した時、ガラヴァは不快感を示す仕草をしました。しかし、彼の妻たちと彼の臣民のいくらかは、窓際にいて、全てを見ていました。彼らの王がスヴァパチャであったと知ることになった時、彼らは気が動転しました。彼が動揺して宮殿の内にある込み合った部屋に再び入った時、大臣、市民、女性たちは彼に近づかず、触れようともしませんでした。彼らは彼を死体ごとく見なしました。彼は彼の従者たちの真っただ中で孤独を感じました。

 程なくして、市民が内々で話し始めました。彼らは言いました。「私たちはこのスヴァパチャと長い間触れ合うことによって汚されてきた。たとえ大変な苦行をもってしても、我々の清らかさは取り戻せない。それゆえに、火の中に飛び込み、我々自身を破壊しようではないか」。そして、彼らは火を四方に点火し、親族もろとも火の中に飛び込みました。有徳の人々とともに生活した結果として、有徳になっていた王は、深い悲しみに打ちひしがれました。彼は思いました。「私はこの王国に降りかかったこの惨事に責任がある。もはやこれ以上どうして生きねばならないのか。私も死のう」。そのように決意し、わずかの後悔もなく、ガラヴァは蛾のごとく火の中にその身を投げ入れました。

 ちょうどその時、ガーディは火の熱さを感じ、夢から覚めました。彼がその錯覚から脱するのに、数瞬しかかかりませんでした。その後、彼は心の中で考えました。「私は誰だ。私は何を見ているんだ。私は何をしたんだ」。その信じがたい不思議な体験に思いめぐらしながら、彼は水から出てきて、この結論に至りました。「深い森の中の気が狂った虎のように、無数の幻の真っただ中で、全ての具現化した存在の心がこのようにさ迷うのを私は見ているのだ」。

 ガーディは彼のアーシュラムで生活し続けました。その後、ある日、彼の親しい友人が彼に会いにやって来ました。非常に喜び、彼は花を彼に差し出し、果物と美味しい食べ物を彼の前に置きました。彼らの夕方の祈りを終えた後、二人の友人は横たわり、互いに精神的意義を持つ話を語り合いました。会話の最中に、ガーディは友人に尋ねました。「おお、バラモンよ!どうしてあなたはそんなにやつれ、弱っているのですか」。友人は答えました。「この地の北部に、ケーラと呼ばれる有名な大王国があります。その都市の人々に敬われ、私は最近そこで一か月過ごしました。彼らと会話するうちに、彼らの一人が私に以下のように話しました。『おお、バラモン!スヴァパチャがここに8年間君臨していたのです。彼が終に見破られたとき、彼は即座に火に飛び込みました。二百人のバラモンも火に飛び込みました』。私がそれを聞いた時、私はその王国を離れました。私はプラヤガで沐浴し、禁欲行に耐えました。三回目のチャーンドラーヤナ(規定された断食を伴う苦行の一形態)の終わりに断食をやめ、私は直接ここに来ています。そのために私は弱り、やつれているのです。」

 ガーディがこれをバラモンから聞いた時、彼は驚きでいっぱいになりました。彼は思いました。「私の体験はこれと一致している。私は、それゆえ、自分自身でこの話の真実を見出しに行こう」。そこで、彼はアーシュラムを離れ、多くの王国を通り過ぎ、終にフナの国に到着しました。それは彼の幻とそっくりでした。正確な場所に、彼がとてもよく見覚えがあるもので囲まれた彼自身の小屋を見つけました。その時、彼はスヴァパチャとしての前世を全て思い出しました。

 信じられない様子で頭を振り、主の神秘について思い巡らし、彼はフナの国を離れ、ケーラ王国に着きました。そこで彼が見たのは、彼が生き、奇妙な体験を経た都市の中の場所でした。彼はまた、人々から同じ話を聞き、心の中で思いました。「この壮大な幻は主ヴィシュヌによって引き起こされている。私は今やその意義を理解した」。

 そのように熟慮し、ガーディはその王国を離れ、山々の洞窟に入りました。ヴィシュヌをなだめるための禁欲行に従事し、命を保つために日に数口の水のみを取りながら、彼はそこで一年半過ごしました。その期間の終わりに、ヴィシュヌが彼の前に現れ、言いました。「おお、バラモンの中の最上なる者よ!あなたは今や我が偉大なるマーヤーの性質を体験しました。その山々の真ん中で、どうしてあなたは再び禁欲行を修練しているのですか」。この言葉を耳にするとすぐに、ガーディは立ち上がり、主に水と花々を捧げました。全ての手足を地面につけ(つまり、転がりながら)、彼は恭しくヴィシュヌの周りをぐるりと回りました。その後、(雨を降らせるよう)雲に懇願するチャタカ鳥にごとく、彼はヴィシュヌに言いました。「主よ!あなたは私に計り知れないマーヤーの性質を示しましたが、私はその神秘を理解していません。どうして幻が現実になったのでしょうか」。

 ヴィシュヌは答えました。「おお、バラモンよ!全創造は心の内に現れ、何ものも外側として存在しません。夢や幻覚において、これは全ての人の体験です。その中に全世界が包含される心がスヴァパチャを映し出すならば、それは何か驚くに値するものですか。あなたの錯覚のために、あなたがスヴァパチャであるという考えをあなたが抱いたのとまさしく同様に、あなたの幻覚のために、来客がやって来たのを見ていたのです。同様に、『私は立ち上がり、行こう。私はフナ国に到着した。これはカタンジャが生活した家だ。私はケーラの都市に今着いた。私の幻覚の後でさえ、スヴァパチャの王の統治について私は知らされ、体験した』という考えを抱いたのです。あなたがスヴァパチャであるという考えがあなたの心にあった時、全てのフナの人々が偶然に同様の考えを彼らの心に抱いたのです。パルミラヤシの木の実の落下が、カラスが木に止まるのと同時に起こることのようです。心の方法は不可解なものです。カタンジャという名のフナ国のこのスヴァパチャは、全くの想像によって存在するようになりました。同様に、彼は、運命に強いられ、外国へ行き、ケーラの王となり、火の中に飛び込みました。その後で、あなたの心の中にある考えが生じ、その考えがあなたにカタンジャの体験を与えました。真の自らを知らない者は、『彼はこの人である、私はこの体である、それは私のものである』といった心の想像に夢中になっています。賢者は、『私は、顕現した万物の背後にある、ただ一つの現実である』と考えます。彼は、それゆえ、苦しみません。おお、バラモンよ!サンサーラと呼ばれる、このマーヤーが、終わりを迎えることは決してありません。自らの探求を通してのみ、それは終わりを迎えます。賢者は、対象物の間の相違という誤った概念を抱きません。それゆえに、彼は錯覚の影響に苦しみません。人が鋭く警戒し、賢明でなければ、心の錯覚に打ち勝つことはできません。心は、マーヤーという車輪のこしきです。それが静止しているなら、問題は全く起こりません。あなたは今や立ち上がり、山の空き地で10年間瞑想を続けなさい。その時、あなたは完全たる知恵を手に入れるでしょう。」

 そのようにガーディを祝福した後、ヴィシュヌは姿を消しました。その識別力を通じて、ガーディは完全な無執着を培いました。概念から完全に離れた心でもって、彼は完全な集中を10年間修練し、それによって自らの知を手に入れました。彼の本質を完全に理解し、一切の動揺と恐怖と悲嘆を免れ、彼は幸福を感じました。彼は一切の世俗の魅力あるものに完全に無関心になりました。彼は生きている間にさえ完全に解放されました。彼は絶対的安らぎの至高なる境地を達成しました。彼の心は満月のごとく完全になりました。

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